感情とは、人を振り回しては消え移りゆく儚いものです。
何人かの友人と坂道を歩いていたら、たまたま自分ひとりだけ遅れて歩いた瞬間の、前に並ぶ友人たちの後ろ姿。
大好きな祖母が隣の部屋で私の文句を言っているように聞こえた低い声と、それがまったくの勘違いだと知った時に見た祖母の横顔。
それぞれの情景はわずかな震えでしかなく、訪れた感情はたいてい流れてしまうものですが、何かの拍子で、流されたあとの痕跡がにじみ出てくることがあります。
幸福感と恐れのはざまに落ちた気配のような感情を、すくいとる努力を続けたいです。
2021.8月 百瀬陽子
『砂に帰る』 壁画アニメーション / 2020-2021
『Back To The Sand』Animation on the wall / 2020-2021